道の駅北川はゆま

クリード チャンプを継ぐ男

映画

『ロッキー』シリーズにてシルベスター・スタローンが初めて脚本を書かなかった今作品。果たしてシリーズの根底にあった熱さは受け継いでいるのだろ……なんじゃこりゃあ!アッツアッツやなかいか!!
観終わった後に、涙で赤くなった目をぬぐいながら「やったるぜオラァア!!」を心も身体も震えさせてくれて、まるでヘビーなストレートのような作品だ。
今回の主人公アドニス君は裕福な家に育ち、いい大学出て、かなり良さげな企業で働いている男。「あれっ、負け犬が頑張るというスポ根の定石を『ロッキー』シリーズでやらないのかッ!?」と思いました、最初。正直ね。
でもいくらお金があっても、人の上に立とうとも、闘って自分で証明することでしか埋められないすき間が彼にはあり、それがまた泣かせる。それは映画の終盤、たった一言で説明するあたりもいい感じです。
話を戻すと、そんなアドニス君が突如会社を辞めてボクサーになるという決断があまりにも突飛な感じがする。つまりはっきりとした動機がわからない。なんか抽象的な感じで自分探し的な?でもグイグイ引き込まれちゃってるんですよね。うまいんでしょうね、演技とか見せ方、ストーリーの転がし方が。この頑張っている奴を無償に応援したくなってくる感じがしてきて、「あっ、俺ロッキーちゃんと見てるわ」って思いました。
さて、御年69歳のロッキーことスタローンの演技にも触れないわけにはいかない。これまでの彼の出演した映画の中でベスト級の名演技を披露してくれる。昔伝説を作り上げたが、今は時の流れるままに余生を過ごすいい親父として登場するロッキー。特にお墓参りで一人で墓標に話しかけながら新聞紙を広げたシーンでは泣いてしまいましたね。もう人生で闘うことはないって姿のロッキーに。
そんな彼の下に「コーチしてくれや」と現れるのが、もう一つの伝説の置き土産、アドニス君だ。この若者は自分を闘いのリングで栄光をつかむのか。そしてロッキーのハートに火をつけることができるのか?
この映画、お話や演技ももちろん素晴らしいのだが、映像も凄くて、ラウンド丸ごと長回ししたり、カメラがぐるぐるとキャラクターをあおるように回ったり、王道的なスローモーションにフラッシュバックの使い方がこの映画全体の雰囲気、つまり若々しい躍動感と、どっしりと腰を据えた安定感と相まって本当によく似合う。あとロッキーが部屋に飾りたいぐらいの良い台詞も所々にぶちかましてくれるのもいいアクセント…ではなく、ジャブとフックになっている点もいい。

さて、この『クリード』は見事に『ロッキー』シリーズが描き続けたものがある。つまり、様々な人々を奮い立たせ、人生のリングでファイティングポーズをとるエネルギーを与え続けてきたパワーが確かに宿っている。過去のシリーズのお約束やオマージュを散りばめただけじゃなく、しっかりと根底を掴んでいた。「何か証明したいものがある」者たちのドラマ、ということを。
クズでごろつきだったロッキーが「俺はクズじゃねぇ!」ってことを証明するために闘いに立ち向かう姿に世界中の涙と汗を流させ、今回でもアドニス君があることを証明するためにリングに立つ。
本当に手ごわい敵は誰なのか?それは目の前の鏡に映っていたり、足元から延びる影だったり、背中に背負っている過去だったりする。それに勝とうとするものを誰が馬鹿にできようか。本当の意味で階段を登るのは勝ち負けなんかじゃなく、その先にあるということをチャンプを継ぎ、そして伝説を再び闘いのリングにあげた男アドニスによって改めて思い知らされるのだ。