道の駅北川はゆま

レゴバットマン ザ・ムービー

映画

超ヒット作『レゴムービー』のスピンオフ作品。今度はバットマンを中心に置いてスーパーヒーロー映画をレゴでご覧いただけます。だけど前作同様一筋縄ではいかないね。楽しくも、どこか寂しく、そしてとっても優しい個人的2017年のベストムービー。

◼寂しくない人などいようか

2014年の『レゴムービー』があまりにも傑作で、その年のベストにも選んだ為、その流れで作られた今作の発表には嬉しさと同時に少し不安もありました。二匹目のドジョウを狙いにいってるだけの作品なんじゃなかろうか、と。

けれど全くの杞憂でした。バットマンをレゴの世界で描くだけの奇をてらった作品なんかではなく、レゴそのものの特色である解体と構築によるバットマンへの解釈をストーリーに盛り込む見事さ、尚且つ『レゴムービー』で私が大好きだった要素がたくさん残っていました。

まず、勧善懲悪ではないことが素晴らしいです。

前作『レゴムービー』では善玉と悪玉という役割を担ったキャラクターが明確に描き分けられ、物語の3分の2ぐらいまではそのテイストで楽しく進んでいきますが、そこから映画史上極めて珍しいツイストにより、悪役をやっつける、とう目的から離れ、もっと大きなテーマへと移行して行く流れは非常に見事でした。

今作『レゴバットマンザムービー』でもバットマンと、彼に敵対するジョーカーの二人によって善玉と悪玉という構図は『レゴムービー』以上にわかりやすく提示されます。

しかし物語の3分の2ぐらいでバットマンがファントムゾーンに送られた際、白色のレゴブロック:フィリスから「あなたは悪いやつじゃないね…けどいい人でもない」と言われ、バットマンが善玉であるという構図が揺らぎます。

そして映画の終盤、ジョーカーと悪役のオールスター達が街をメチャクチャにしゴッサムシティが崩壊しようとする時、バットマンがついにジョーカーの気持ちに応えます。「お前が必要だ」と。そこでジョーカーは満ち足りた気持ちになって、これからも仲良く喧嘩するために手と手を取り合う展開になります。

ジョーカーの目的は今作ではゴッサムシティの混沌ではなく、好敵手から認められることだったのです。特別な人から特別と思われたいだけなんですね。

では今作のバットマンが心の底ではない求めていた目的は何か。

バットマンはいくらゴッサムシティの脅威となる悪役をいくら退治しても満たされることなく、悪役がいなくなったらいなくなっても心の隙間は埋まらない。

つまり、今作ではゴッサムシティを悪の軍団から守るが第一ではなく、バットマンの心を満たすことであるのが最大の目的なんです。善と悪という構図ではなく、善側のバットマンも、悪玉のジョーカーも、寂しい気持ちを埋めるために動いている。

今作品はギャグやノリが良くてとても楽しい映画ですが、根底には人は誰もが寂しい、という弱さを描いているところが素敵です。これは誰にでも共感できる感情だから、嘘をつけない心の叫びだからこそ、例えレゴのキャラクターで、しかもスーパーヒーロー達の話であってもぐっと側に感じられる内容なんです。

ちなみに、私がこの映画を観ていて序盤で心を掴まれたシーンはバットマンがレンジでチンをしているシーンです。ロブスターが温まるまでの間、バットマンがレンジの前で待っていますが、彼の後ろで部屋の壁に映る影が左に右にと動いているんです。つまり、彼は暗闇の中にいても、影につきまとわれている寂しい男とであることが示唆されているんです。

◼ハッピーエンディング

善と悪という構図が途中から崩れる所も『レゴムービー』と共通していますが、もう一つ決着のつけ方も似ています。

それは”善玉も悪役も幸せな気持ちになって終わる”ということです。

『レゴムービー』では敵の親玉であるお仕事大王が象徴していた父親と最後レゴでスクラップ&ビルドをして遊び、創造することは最ッ高なんだというメッセージを非常に上手く描いていました。

『レゴバットマンザムービー』でも敵であるジョーカーがバットマンからしっかりと力強く目を見つめながら「お前が嫌いだ」と言われることによって心に抱いていた寂しさが解消されます(ちなみに、フィリスが地上にやってきた際にジョーカーがメチャクチャ可愛い笑顔で手を振っているのが確認できますが超萌ポイントです)。

一方、主人公であるバットマンも家族ロビンや共に闘う仲間達とウェイン邸で楽しそうな日常を送っている姿が描かれて映画の幕は終わります。

超金持ちで、凄腕の探偵であり、憧れのヒーローと多くの人々から感謝され讃えられていても埋まらなかったスキマを埋めてくれたのは、家で一緒にご飯を食べて、映画を見ながら突っ込みをいれてくる人がすぐ側にいてくれることだった、というメッセージが素朴で単純。なんだけど、いい。

主人公も敵もハッピーエンドで終わる。お互いが求めていたものがしっかりと得られて、尚且つそれが不自然ではない。

これは中々ないですよ。非常に珍しい終わらせ方です。

勧善懲悪の構図から離れても観客の心を満足させ、それぞれのキャラクター達をハッピーエンドへと導かせる物語なんて「なんて優しい映画なんだろう」と涙が出ましたよ。

◼もしかしたら…

さて、この映画は『レゴムービー』のスピンオフであることを見事に活かしたさり気ない仕掛けがあります。ひょっとしたらこっちの考え過ぎかもしれませんが、どこか信じてみたくなる仮説。

それは、この物語は『レゴムービー』でレゴを作って遊んでいた家族達が作り描いたお話だという説です。

この仮説を裏付ける要素は三つ。

まず一つ目、ゴッサムシティの地殻です。

この地殻は二本の柱の上に置かれた薄い板の上にゴッサムシティがあると説明があり、真ん中を破壊されるとバランスが崩れ奈落に落ちることがニュースで説明されます。そんな地殻あってたまるか!しかし、ある場所ならばこの理屈は通るんです。それはテーブルの上です。ゴッサムシティの下にある地殻は我々が日常で使うテーブルの形と一緒なんです。これがまず一つ。

二つ目、指紋です。

『レゴムービー』同様作中に登場するレゴブロックに指紋がついているのが確認できます。『レゴムービー』ではレゴの世界は人がレゴを使って作り上げたファンタジーの世界だという事を指紋によって示唆されていました。つまり、指紋によってレゴで描かれている世界は我々人がレゴを使って描いている空想であることの繋がりとしてもちいられていたので、それは今作でも同じことを示唆していると考える事ができます。また、地殻が崩壊するとどうなるのかをテレビで説明している際、奈落の底に落ちていく人物は『レゴムービー』の主人公エメットです。

三つ目は蛇ピエロです。

この蛇ピエロという発想がレゴバットマンの世界ではかなり異質です。急に湧いて出たような感じ。これは『レゴムービー』の最後の最後に登場した小さい妹が作り上げたレゴのキャラクターなんじゃないかなって思うんです。今作では蛇ピエロが画面に出るタイミングが同じく最後の最後ですからね。

前作同様、レゴはあくまで子供の想像力に翼をくっつけるオモチャであることをしっかりと掴んでいることを『レゴバットマンザムービー』からも感じ取れるんです。

■最後のひと言

今作が私の2017年のベストにしたのは大体以上の理由です。

他にもジョーカーが子犬みたいに可愛いことや、バットマンがいるから多くの悪役が生まれるんだというアニメシリーズ版『バットマン』でも取り上げていたテーマを上手く盛り込んでいたりと感心しっぱなしでした。

バットマンとは何かを至極真面目に考えているんだけど、コメディで包み込んで描き、バットマンにとっての幸せとは何か?を考えつつ、敵であるジョーカーにもそのおすそ分けをプレゼントしています。

半世紀以上も愛されたキャラクターに幸せな結末を与え、

勧善懲悪を超えた誰しも抱える“寂しい気持ち”への共鳴、

そして子供の想像力にも寄り添おうとするレゴの世界自体のコンセプトを忍ばせている。

これらのブロックがしっかりと繋がりあって、見事な映像作品として成立しています。

2017年も多くの良い映画を観ましたが、これほどまでに多彩な色を放つハッピーエンドを描き、とても一言では言い表せない満足感と幸福感を頭一杯に与えてくれたのはダントツでこの作品『レゴバットマンザムービー』でした。

私がこの年を振り返る時に、一つのブロックとしてきっと存在するであろう映画です。