道の駅北川はゆま

ギャラクシー・クエスト

映画

今回は予定を変更してSF映画の大傑作『ギャラクシークエスト』を紹介します。

たまに、質と知名度が合っていない作品であるでしょう?『ギャラクシークエスト』は正にそんな作品で、隠れた傑作であり、もっともっとスポットライトを受けるに値する作品だ。もし、映画好きとの会話で「好きなSF映画は?」という質問でこの作品を答えた人とはいい酒が飲めそうだ。
あらすじはこう。テレビシリーズ『ギャラクシークエスト』という昔の伝説的カルトSF番組の出演者たちが主人公。彼らは放送時は人気者で、今なおファンからは愛され続けている。しかし、自分たちが本当にやりたい事、役、演技が全然ないし、鳴かず飛ばず。なので過去の栄光である『ギャラクシークエスト』にしがみつき、ファンの集いやイベントに参加することで日々のおまんま代を稼いでいることにうんざりしている。
そんな彼らの前になんと本当の宇宙人がやってきた!彼らは地球からの電波を拾い、『ギャラクシークエスト』を観て「彼らなら私たちを救ってくれる!」ということで助けを求めにはるばる地球にやってきたのだ。役者たちは冗談かと思っていたが、マジだと知りビックリ仰天するも、やがて彼らと共に敵と闘う決意をする。
まぁーあらすじを書いているだけでワクワクするのと同時にんなアホな!と思っちゃいますね。そしてSFマニアなら見れば一発で分かる通り本当に実在するSFドラマ『スタートレック』のパロディーが満載だということに気づくはず。なんだよ、パロディー映画なら元の作品観てる人しか楽しめないじゃん、と思いきやこの作品はそんなもんじゃない。むしろ単なるSFでもなく、物語についての物語だ。
『ギャラクシークエスト』の役者たちに助けを求める純粋無垢な宇宙人サーミアンは、このドラマを何度も何度も繰り返し見て、彼らの中でこれは語り継がれるべき物語で我々の歴史と共に歩むべき良き存在であるように崇拝している。やがてそれは文化となり、建築にも影響を与え、思想や哲学にもなり、やがて信仰になった。彼らは物語に救いを見出し、そして共に歴史を歩んできた経緯が描かれている。まるで世界中の人々が聖書や、おとぎ話や、民話などの物語を語り継いで人類の血の一つとしたようにね。
そんな彼らを観て役者たちは自分達の仕事の持つ可能性、意義、そして演じるということの素晴らしさと誇りを取り戻してゆく。特にトカゲ頭こと奇妙はカツラをつけて役を演じないといけないデーンというキャラクターがそれを表している。
デーンを演じるのは先日69歳で亡くなったアラン・リックマン。彼の数ある名演技のなかでもトップクラスの素晴らしい演技を披露している。デーンはドラマ内でドクター・ラザラスというトカゲ頭のエイリアンを演じていたことに嫌気がしていて、「熱烈なファンです!」と言われても「こんな絵空事を好きになってどうすんだ、バッカじゃねぇの」という態度をとってファンの心を傷つけてしまう。
だが、彼は変わる。宇宙人の中にドクター・ラザラスの熱烈なファンがいて、それどころか父親のように慕い、生き方もあなたから教えられたというクエレック君という男の子がいて、またも「おいおい…大丈夫か…」という態度をとるが映画の最後、世界中の映画ファンの涙をギュウギュウに絞りまくった彼の改心の場面が用意されている。あえて書かないが、アラン・リックマンのベストアクトの一つだと断言します。本当に惜しい人を亡くした…。
この映画の見どころは他にも盛り沢山でありとあらゆる愛が詰まっている。伏線の回収の仕方の見事さ、見どころの多さによって観客の心を離さない展開、そしてラストのどんでん返しにあっと驚く場所での最終対決と泣き笑いの結末は毎度ガッツポーズをあげたくなるぜ!出てくるキャラクター達も一人ひとり性格や役割、人物像がしっかりしていてちゃんと血が通っているキャラクター達ばかり。
役者が演じるということの意味を見つめなおす作品でもあるし、作り手たちと観客の関係にもスポットをあてた作品だからクリエイターや役者を目指す人はよりオススメだ。
まだまだ書きたい事や触れたいネタは多々あるが、そろそろまとめよう。
この映画は物語を愛する人の物語だ。物語をお約束や愛を逆手にとって素晴らしくよくできたストーリーや展開、伏線、お遊びやギャグ。そして根底にあるのは何かを好きになるってことを全面から肯定していて、物語や空想が好きで映画を観ている人すべてに送るラブレターのような映画だ。私たちは、この世に存在しないモノ、空想上の世界、目には見えない何かを信じて好きになる力を持ち合わせたことへの感謝の念と賛辞を送りたくなる逸品だ。
言い過ぎだろって思う人もいるかもしれないけど、私にとってはそれぐらいの作品。毎度観るたびに前述したドクターラザラスとクエレック君のシーンで水分を持っていかれるし、描かれているテーマ、そして作中の決め言葉「ネバーギブアップ!ネバーサレンダー!」に勇気づけられて、「あぁ、映画好きでよかったな…」と思う。そしてこれからもね。
R.I.P アラン・リックマン。一生の宝物のような感動をありがとうございます。私たちとは違う世界で、人々の心に残る演技を演じ続けるであろうことをお祈り申し上げます。